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事故と刑事罰

化学工場などで事故を起こすと当然、警察や労働基準監督署の調査が入る。労働基準監督署は労働法令に関し司法権のある役所だ。
事故の原因が複雑であれば、半年や1年で結論が出るわけではない。実際に起訴されるまでに2年や3年もかかる事例は多い
化学物質の関係する事故の原因はそう単純ではないからだ。法律上責任を問われるのは、法令違反があるかないかだ
法令の条文は、細かなことまで規定していないから、適用の検討に時間がかかる
つまり、法令の条文をどう解釈して個別の事故に対応させるかに時間がかかるのだ
単純な事故であれば、法の条文をそのまま解釈して適用できるが、化学物質の危険性に起因する事故はそう簡単にはいかない
刑事罰を問うには、事故の予見性と言うことが重要になる。事故になるとはわかっているのに何もしなかったというのは、犯罪になる
しかし、物質危険性などはその危険性を予測できないものもある。物質危険性というものは、全てわかっていると言うわけでは無いからだ
未知の領域が多数存在するから、事故の予見性を解析するのは容易なことではない
公知の事実であれば、それを知らなかったでは済まされない。事故は予見できるからだ
しかし、公知の事実でなければ、事故が起こることは予見することは難しい
化学プラントの事故の裁判を見て見ると、この事故の予見性について裁判官の判断がバラツキがある
裁判官は、化学の専門家ではないからだ。だからといって事故が起きていいと言うわけではない
事故が起きてしまえば、社員が刑事罰に問われることがある。刑事罰を受ければ、社員は精神的な負担も受ける
事故を起こせば社員にこのような負担がかかることもある
昔は事故を起こした直属の上司などが起訴されていたが今は違う。
事故は企業の文化や組織体制にも問題があるからだという観点から直属の上司だけでは無く工場長や社長なども起訴の対象となる。
企業のトップが本気にならなければ事故は減らせないからだ。
お金や人事権を握っているのは企業のトップそのものだからだ。
事故と刑事罰について書かれている情報があるので参考までに紹介しておく。
https://kigyobengo.com/media/useful/1944.html
https://osh-management.com/legal/information/legal-introduction-02/#gsc.tab=0
事故を起こせば犯罪となることもある
事故防止の技術を磨いて欲しい

 

2024年11月20日

HAZOPは深掘りがポイントだ--深掘りに失敗した事例を多く学べ

HAZOPに関する公開講習会を始めてもう7年になる
年に何回かHAZOPに関係する講義をする 個別企業に出向いての講義も有るが、公開版もある
今年最後の公開版の講義日程を紹介しておく。12月の23日に私の講義を予定している
https://johokiko.co.jp/seminar_chemical/AG2412E1.php
講義の中でいつも強調しているのは、
HAZOPで深掘りできるように、過去のHAZOP失敗事例を学べだ
まずは「ずれ」の見落とし事例も学ぶことだ。次は「ずれ」は見つけたが、対策が甘くて失敗事例を学んで欲しい
例えば、逆流というずれに対して、安易に「逆止弁」を設置する対策ですます事例だ
失敗しているのは、逆止弁が作動しなくて結果として事故になってしまった事例だ
設備をつけたらそれで安全だと思い込むところに事故の芽がある。点検周期などの運用管理迄深掘りして対策をとる必要がある
逆流が起きて短時間で対応が必要なら、緊急遮断弁の設置もしなければ事故は防げ無い
一つだけの対策は必ず破られる。2つ以上の対策を考えないと事故の未然防止は難しい
HAZOPの講演を始めたのはこんな理由だ
多くの企業が、HAZOPを利用してリスクアセスをしてはいるものの、相変わらず事故は起こっている
なぜなのだろうと考えてみると、HAZOPはやっているものの危険源そのものを見落としているか、リスクは抽出したものの、その対策に甘さがあるかだ
つまり、HAZOPの深掘りが出来ていないのが問題点だ
その理由はなぜなのだろうと考えてみると、HAZOPの手法ばかり教えている
肝心のHAZOPで見落とすような危険源を上手に教えていないからだ
また、せっかくHAZOPで抽出したリスクに対する安全対策も対策が中途半端で事故になった事例もしっかりと教えていないという現実がある
HAZOPを使ったり、HAZOP的な思考をすることは大変いいことだと思う
しかし、HAZOPの「失敗事例」を体系的に学ばなければ、企業としての実力はついていかない
つまり、誰でも気づくようなずれは、教えなくても皆が考えつく
皆が考えつかなかったような「ずれ」で起きた事故事例も知識として持っていないと、HAZOPで深掘りできない
私の知っている6500件の事故事例から抽出したHAZOPの失敗事例を紹介して行く。 12月の23日に開催する
興味のある方は、一度聞いてみると良い

 

2024年11月15日

製油所の大規模火災に思う  事故の本質は何か

2017年1月22日に起きた和歌山の製油所で大規模火災が起きた事故を知っているだろうか
https://tank-accident.blogspot.com/2017/07/blog-post.html
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/2017/20170614_01_1150234.html
製油所が数十時間に及ぶ大火災となった事故だ。住民も避難させられた大きな事故だ。
きっかけは配管が腐食して穴が開き、ガスが漏れ火災になったことだ。このガス漏れが起きたときは、地上高い所にある配管で大きな炎ではなかった
すぐに緊急停止システムは作動させたが、原料ポンプは自動的に停まる設計仕様にはなっていなかった
緊急停止はしたものの、原料ポンプが停まらなかったことで原料が流れ続け長時間最初にガスが漏れた配管開口部から大量の液が流れ続けた
原料ポンプをすぐに停められればこれほどの大事故にはならなかったはずだ
何が問題だったかを解き明かすと、緊急停止インターロック機能に問題があった
緊急停止インターロックに、原料ポンプの停止を組み込んではいなかったからだ
次の問題点は。原料ポンプは遠隔で停止出来る方式にはなっていなかったことだ
ポンプは現場で起動停止する方式で、計器室からの遠隔停止操作はできない方式だったというのだ
いわゆる現場操作型のポンプだ。火災発生時現場でなんとか停めようと試みたものの、炎でポンプの周りに近づけず現場で停止出来なかったという。
電気室に近づくことは考えたものの、電気室にも火が迫っていて結局電気室でポンプの電源SWを切れなかったという。
ポンプさえ停められれば、流れ出る油を停められ火炎は一気に抑えることが出来たと思われる。
この事故の教訓は何かと考えてみると、遠隔操作で原料ポンプを止められなかったことだ。
ポンプが停まらないから、配管に開いた穴からいつまでも可燃物が吹きだし長時間火災となったことだ。
火災が起きるととにかく現場に近づけない。電気室も火が迫ってしまえばこのような事態が起こる。
自分のプラントのどこかの配管が破れたら、現場に行かなくても安全に流出を早期に停められるような装置になっているか検証してみて欲しい
人が少なくなっている昨今は、いかに緊急時の自動化停止化や遠隔操作化を進めていくかだ
緊急遮断弁の増設も考える必要がある。漏洩範囲を極小化することによるよる効果も大きい
自分たちの設備が、省人化に対応した設備になっているか一度検証して欲しい。時代の変化に対応した設備管理が求められている

 

2024年11月10日

摩擦熱で起こる事故-ベルトコンベアー火災

熱はエネルギーだ。火災や爆発にはこの熱エネルギーが必要だ
熱はエネルギーだから、着火源になる
着火源について、現場で使われる火気や反応熱などの事故事例は多く良く知られている。
しかし、案外見落とされているのが「摩擦熱」だ。
摩擦が起これば熱が発生する。当然、発火点以上になれば、物質は発火する。火災になるか爆発になってしまうかだ。
ベルトコンベアーなどの火災はこの摩擦熱が原因であることが多い。
先ほどネットを見ていたらこんな事故を見つけた
https://www.chunichi.co.jp/article/809046
ゴムという可燃物が存在するから着火する。
過去にも多くのベルトコンベアー火災は起きている
https://ecoeng.exblog.jp/16955693/ 
ロータリーバルブも摩擦熱に注意する必要がある。
内部に歯車があるからだ。歯車部の摩擦で、摩擦熱により着火爆発が起きている。
温度に敏感な過酸化物をロータリーバルブで輸送していて起こした事故もある。
排気ダクトなどの火災は摩擦熱が原因で起こる事例も多い。
ダクト内の換気ファンの羽根がダクトと接触して摩擦熱で着火火災になる事例だ。
工場だけでは無く研究所でも起こる。ダクトの換気ファンなどはめったに点検しないから、このような事故が起こる。 
ポンプの軸受けも注意が必要だ。ベアリングが錆びて摩擦熱を発生して着火。
グランドから漏れた液が、摩擦熱で着火という事故事例もある。
気体がすきまから噴き出すときにやはり摩擦熱が発生する。流動による摩擦だ。こんな文献もあるので参考にして欲しhttps://www.khk.or.jp/Portals/0/resources/activities/incident_investigation/hpg_incident/pdf/dannetu.pdf
摩擦熱にも注意を払って欲しい。

 

2024年11月05日

スチームハンマー 水撃 油激現象で起こる事故

スチームハンマーという言葉を聞いたことがあるだろうか。蒸気ハンマーとも言う 水撃と呼ぶこともある
蒸気を流し始めたときに起こる,激しい衝撃音を伴う現象だ。言葉で説明してもなかなか難しいので、ここにビデオがあるのでみて欲しい
https://www.tlv.com/ja-jp/steam-info/steam-theory/steam-trouble/0902water-hammer1
工場勤務をしていた時に、スチームハンマーで配管エクスパンションや柱のはりが曲がった事故を経験したことがある
圧力は1Mpaで,配管口径が16Bもある大口径配管だ
1989年10月26日の朝の出来事だ。昔は寒かったので最低気温は10度台だろう
蒸気配管を一度停め,その後復旧したとき,スチームトラップを活かすのを忘れていたのが原因だ
配管内に溜まった凝縮液が、排出されずスチームハンマーを起こした事故だ
もう一つ激しい衝撃が起こる現象で「油撃」という現象がある。油を流している配管の流れを急に停めたときに起こる現象だ
ボール弁などの様な急に閉めることのできる弁で,弁を急に閉めるとガンガンという激しい衝撃が起こる
流れているときの運動エネルギーを急に,停めることで起こる現象だ.緊急停止弁などを作動させたときにも起こる
大口径になればなるほど運動エネルギは大きくなるので、この油撃は起こりやすい
この資料の6ページ目に事故事例の記載がある。個々の表現では水撃という言葉が使われている
https://www.piif-osaka-safety.jp/Content/NewsPaper/%E5%B9%B3%E6%88%90/%E5%B9%B3%E6%88%9012%E5%B9%B44%E6%9C%88-%E5%B9%B3%E6%88%9013%E5%B9%B43%E6%9C%88/557%E5%8F%B7.pdf
こんな事故事例もある
https://www.khk.or.jp/Portals/0/resources/activities/incident_investigation/hpg_incident/pdf/2007-597.pdf
水撃、ウオーターハンマー、油撃、蒸気ハンマー、スチームハンマーなど色々な言葉が混在して使われているが
蒸気や液体を流している配管で起こる衝撃を伴う現象だ
事故事例がほとんど公開されていないが、異常現象として知っておいて欲しい
https://pedia.e-houan.co.jp/cases/666/
https://www.apiste.co.jp/contents/pcu/chiller_guide/article/10/

 

2024年10月30日
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