事故や災害に思う
排水タンクの爆発事故を紹介する。死者17名の大惨事だ。約20年ほど前にアメリカで起こった大惨事だが、教訓となるものが多い。
以下の安全工学会学会誌に詳細が書かれているので興味のある方は見て欲しい。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/32/3/32_200/_pdf
多くの死者が出たのは、現場に人が沢山いたからだ。タンクのガスを圧縮する、圧縮機の修理が終えたので起動させようと現場に多くの人がいたので結果として多くの人が爆発に巻き込まれたのだ。現場に人が沢山いたことが犠牲者を増やしてしまった。
この企業は、事故が起こるまで140万時間も労働災害は無かったとの記述がある。今まで事故が無かったというのは、将来事故が無いという保証は一切無いということでもある。
事故を起こした排水タンク周りは、しっかりとHAZOPをやってはいたという。HAZOPはやっていても、事故は起こるということだ。HAZOPは、やることに意味があるわけでは無い。「ずれ」という現象を使って安全性評価をする手法は、シンプルで有り上手に使えば危険なことに対ししっかりと安全性の評価ができる。しかし、ずれで起こるHAZARDは深掘りしなければいけないところは深掘りが必要だ。広く浅くでは、HAZOPをやっていても事故になる。この事故はそれを物語っている。
この排水タンクは、コーンルーフ型のタンクだ。廃液の中には酸素を発生する物質が含まれていた。更に廃液には、可燃性物質もあったので、タンク内には可燃性ガスが存在していた。当然、危険なのでタンク内の酸素濃度を測定する酸素分析計が1台設置されていた。酸素濃度計と連動して、チッソがタンク内に自動的に供給されるシステムが設置されていた。つまり、タンク内に、爆発混合気が出来ないように運転されていた。
ところが、計器というものは故障することもあるものだ。つまり、計器が故障して、酸素濃度は低めに出ていた。計器は狂っていると思わず、運転員は酸素濃度が低いから安全だと思い込んでいた。指示が低いということは、チッソの供給量も連動して少なめになっていた。つまり、タンク内には爆発混合気が出来ていたのだ。
タンク内のガスには、可燃性のガス分もあるため、一部を抜き出して有効利用する設計になっていた。つまり、タンクからガスを抜くために圧縮機が設置されていた。あるときこの圧縮機が故障して修理に出していた。その圧縮機が、修理から戻ってきて再起動する時に事故は起こったのだ。
圧縮機を設置復旧前に、一時的にタンクの窒素シールを停めて配管工事をしていた。つまり、タンク内にはチッソが入っていないため、爆発混合気が出来る状態をわざわざ作り出していた。
その状態で、圧縮機を起動したのだから圧縮機はもろに爆発混合気を吸い込んでしまった。気体は圧縮すれば断熱圧縮現象が起こるから、爆発混合気の温度は一気に上がり発火点を超え着火爆発した。火炎はタンクへ逆流しタンク内に存在していた爆発混合気が一気に爆発したのだ。
HAZOPの問題点を挙げると、NO,NOTのガイドワードをうまく使えていなかったことだ。つまり、チッソが「流れない」というずれを甘く見たことだ。人がチッソの手動弁を閉めて一時的にせよチッソを停めてしまうと言う重大な危険を考えなかったか、又は見落としたことだ。本来なら、HAZOPでは、安易にチッソを停められないように手動弁を施錠したり、自動弁も低流量にならないように流量制限機能を取り付けておくべきだった。
次は、LESSというガイドワードだ。少なめというリスクだ。酸素の分析計が故障して、酸素濃度を低めに出すというリスクだ。分析計とチッソを供給する流量調節弁は連動しているから、指示が低ければチッソ供給量は減少する。見方を変えると、爆発混合気を形成する方向へと進んでいく。
計器は故障すると考えれば、HAZOPではこの酸素分析計は2台以上設置して計器の信頼性を向上させるとしなければならなかったはずだ。
重要な分析計が故障して事故になることは繰り返し世の中で起こっている。特にこのような、爆発混合気を作らないための重要計器であれば冗長化するのがHAZOPの基本だ。
もう一つのミスは、圧縮機に関するずれの見落としだ。気体は圧縮すれば、断熱圧縮という現象が起こる。つまり温度が上がるということだ。気体の発火点を超えれば当然着火する。温度が上がるというずれをどう見ていたかだ。圧縮機は、温度上昇があるというずれを甘く見ないで欲しい。
色々書いたが、HAZOPを使いこなしていくには、多くの事故事例を学んで欲しい。事故事例を知らずして、安全性評価は出来ない。リスクマネージメントが叫ばれる昨今ではあるが、事故からの教訓を学んで欲しい。