技術伝承
2011年の東北大震災以降、化学関連業界では大きな事故が立て続けに起こった。背景には、いわゆる豊富な経験を持っていた団塊の世代が企業から去って行ったことも関係していると言われている。これを受け、石油化学工業協会、日本化学工業協会、石油連盟などの業界団体は技術伝承にも力を入れている。2012年から保安教育強化の一貫として、年1回の頻度で企業の安全を担う中核人材を集めて教育講座が開かれている。2014年迄は、「産業安全論」という名前だったが昨年からは「産業安全塾」と名称が変更されている。企業から選抜された中核人材30名程度が受講できる講座だ。インターネットで「産業安全塾」と検索すれば出てくるので興味のある方は見て見るといい。
講師陣は、経済産業省などの官庁サイド、業界団体、企業の安全に関わる経営サイドのメンバー、技術伝承や人材育成の有識者など多岐にわたる講師陣だ。それぞれ専門分野毎に、情報や貴重な経験を、約1時間半程度講師が話してくれる。合計で15回の講演が聞けるのだ。非常に幅広い分野の情報を生の声で聞けるという、有意義な講座である。しかも、参加者同士がコミュニケーションを行いながら安全情報ネットワークを構築できるという利点がある。
私も昨年の夏に、四日市コンビナート地区で行われたこの講座の講師として参加させてもらった。安全教育・啓発の体系化と実践というカテゴリーを受け持ち、「事故事例から学ぶべき教訓」という演題で話をさせてもらった。多くの事故事故事例からどのように教訓を抽出していくかという切り口を紹介するものだ。90分という講演枠では、時間が足らないのだがエッセンスを抽出して伝えている。
東京地区でも、昨年10月頃から今年の2月までこの講座が開催され、同じようなテーマで講演をさせてもらった。数日前、この講座の最終日に修了式があり参加して各企業から選抜された受講生達と話をさせてもらった。これからの企業を担う30代から50代の中核人材だ。この中に、4月からは中東のアブダビの石油精製会社へ派遣の辞令が出たという若者もいた。目がらんらんと輝いていた。
この若者は、1月の私の安全工学会での講演の時にも熱心に質問をしてくれた。日本で学んだことが、赴任先の海外でも役立つこと願いたい。
安全もグロ-バル化の時代だ