事故や災害に思う
2月17日に東京で開催された、危険物保安技術協会の講演会に行ってみた。この団体は消防関係の団体なので、危険物関連の事故を材題に事故事例の紹介がある。今年も、横浜や川崎などの消防関係者から事故事例の紹介があった。事例に中に、同じような事故が起きるのだなと感じさせられた事故事例があったので紹介しておく。
数年前に、姫路でアクリル酸タンクが爆発して消防車が燃え消防士に多くの死傷者が出た事故を覚えているだろうか。この物質は、冷やしていないと発熱反応を始めてしまうもので、タンク内の液の循環を忘れたことにより冷却コイルの無いタンク上部で反応が進みタンクが破裂爆発した事故だ。反応性物質なのに監視用の温度計も無かったことで、異常に気づくのが遅れたことも原因だ。
今回の講演会で紹介があったのも、アクリル酸エステルという物質を貯蔵するタンクだ。このタンク内で異常反応が起こっているのに気づくのが遅れ、タンク上部のベント配管から可燃性蒸気が噴き出したという事故だ。幸い、タンク外部から放水による緊急冷却や、窒素のタンク内への吹き込みで爆発はま逃れた。対応が遅ければ、姫路と同じようにタンクが蒸気圧で破裂爆発した可能性がある事故だ。
2015年8月12日に川崎で起きていた事故だと紹介があった。家に帰って何か当時の報道記事があるかと調べてみたが、火災や爆発もしていないので報道記事すら無かった。つまり、表に出てこない類似事故は多いのだ。
事故の原因はこうだ。この物質は、反応しやすいので反応禁止剤という物質が加えられている。ところが、購入しているこの物質に加えられている反応防止剤が少なかったのだ。つまり、条件が整えば勝手に反応が始まる状況になっていた。しかし、反応禁止剤の量が少ないことは、運転側は気づいていなかった。
あるとき、タンク内で液が少し固まるトラブルが起きた。原因は良くわからなかったので、タンクの中に液を滞留する時間を増やしたのだ。つまり、タンクの中に液がいる時間が長くなったことにより、ますます反応禁止剤が消費されてしまっのだ。つまり、タンク内に存在する反応禁止剤が少なくなったことにより、タンク内で発熱反応が開始していたのだ。
タンクには、温度計は一つしか付いていなかった。タンクは外側から冷やす方式で、タンクの下半分にしか冷却用ジャケットは付いていなかった。温度計は、タンクの冷却ジャケット部側に取り付けられていたので、タンクの下部の温度しか測定できなかった。
更に悪いことに、タンクには撹拌装置は取り付けられていなかったので。
タンクの冷却は下側しか行われず、撹拌装置も無かったことにより上の部分で発熱を伴う反応が進んでいた。温度計は、タンク上部には無かったので、上部の異常反応による温度の上昇には気づかなかった。この物質は、反応すると粘度が上がるので、ネバネバした状態になる。つまり流動性が悪くなるのだ。撹拌装置は無いのだから、自然対流はますます行われない状態になり、タンク上部側で温度がどんどん上昇して行った。
タンク上部から大量の蒸気が噴き出したときには、温度計の指示は振り切れていたと言うからかなりの暴走反応状態だったはずだ。
まさかタンクの中で反応は起こるまいと考えていたのかもしれないが、反応性の物質を入れていれば、タンクは反応器に突然なり得ると考えておくべきだ。